土地活用コラム
「コロナ不況を理由とする賃料支払いの「猶予」申出への対応について
テナント(事業者)から、新型コロナウイルスの影響により事業の売上が激減したので、月額20万円の家賃を、7月分から9月分は月10万円に「猶予」して欲しいという要望がありました。オーナーとしては、どのように対応すればよいのでしょうか。
1.前提事業
①賃料をいくらにするかは、賃貸借契約書によって決まるものです。
②契約は、当事者お互いの合意があって初めて成立するものです。
③したがって、テナント側から賃料減額の申出について、オーナー側が応じる義務はありません。
④逆に、オーナー側から賃料増額の申出をしても、テナント側が応じる義務はありません。
⑤賃料の変更について話合いがつかなければ、申出をした側が裁判所に賃料変更の調停の申立てをする必要があります。
賃料の変更については、いきなり裁判を起こすことはできず、必ず調停手続を経る必要があります。(これを調停前置主義といいます。)
2.新型コロナウイルスの影響
最近。国土交通省土地、建設産業局不動産業課長が、令和2年3月31日付けで各不動産団体の長に宛てて発した依頼書を根拠に、テナント側がオーナー側に対して、賃料の支払猶予を求める例が見受けられます。
なお、依頼者には、「新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施の検討頂きますよう…」などと記載されています。
(国土交通省のホームページ)
3.「猶予」とは?⇒とても大事です!
⑴賃料の一部「免除」のことか?→テナント側が望むこと
「免除」となると、設例では、オーナーは、月10万円の3か月分の30万円の減収となり、この30万円についてはテナントへの請求を「放棄」することになります。
テナントとしては、30万円の支払義務がなくなり、この分は後になっても払う必要はないのですから、テナントが求める「猶予」とは「免除」を求めることが一般的です。「免除」した場合、例えばテナントが各種助成金を受け取ったり、業績が回復しても、後になって減収となった30万円をテナントに請求することはできません。他方、オーナーは、減収となった30万円については、税務上「損金」として計上することが可能となります。
⑵支払「時期」の猶予→オーナー側が望むこと
オーナー側としては、不利益が大きい免除までは応じられないが、支払時期を先延ばしして猶予することなら応じてよいと考えるのが一般的と思われます。
設例だと、7月分から9月分は毎月10万円を支払ってください、足りない30万円は12月(年内)に支払ってくれるのであれば応じますというパターンです。
結果的には、オーナー側が賃料減額分30万円をテナント側に貸し付け、分割払いなどで返済してもらうことと同じです。テナント側としては、一時的な支出は抑えられますが、減額分の借金をするようなものであり、「免除」に比べるとメリットはかなり小さいです。
オーナー側も減額した分は「損金」とすることはできず、約束とおりに年内に支払いがなかったとしても、契約書とおりの賃料を「売上」に計上する必要があります。
4 折り合いがつかなければ?
⑴滞納を理由に賃貸借契約を解除して明け渡しを求める
実際に契約とおりの賃料の支払いがなければ、法律上は滞納が発生していることになるので、オーナーは滞納を理由に賃貸借契約を解除し、テナントに対して明渡しを求めることができます。これまで滞納はなかったが苦情が多いテナントや、古い建物で立て替えたいのでこの機会に退去してもらいたいならば、この手段をとるのも選択技の一つです。
⑵裁判で解除が認められるか?
もっとも、テナントが解除や明け渡しに応じない場合は、建物明渡しと未払賃料を求めて裁判を起こす必要があります。ただ裁判の場合、審査終了時までに滞納が3か月分くらい溜まらないと明渡しが認められにくい傾向にあります。提訴したものの、テナントが必死になって賃料を支払い、滞納がわずかになってしまうと、裁判所は明渡しを認める判決を出してくれません。またコロナ渦中という事態なので、3か月分という目安もテナント側の事情を汲んで、4か月分以上となる可能性もあります。
5 まとめ
オーナー側に注意していただきたいのは、国が賃料の減税免除や支払時期の猶予を、法律上の義務としているわけではないことです。
さきほどの国土交通省の依頼書を根拠に、賃料の減額免除に応じることが、あたかもオーナー側の当然の義務であり、さながら特定業種への休業要請と同等であるかのよう主張するテナントもありますが、誤解がないようにしてください。そして、どのような内容で応じるかは、これまでのテナントの関係次第となりましょうが、応じる場合には、必ず内容を書面化しておく必要があります。
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