土地活用コラム
過去のテナントが残した残置物の取り扱いについて
過去のテナントが退去して残した建物備品(例えばクーラーなど)が故障し、現在のテナントが修理を請求した場合、貸主はこれに応じる義務はあるのか?
1.残置物の権利関係
貸主は応じる義務はあります!
「残置物」の所有権は、過去のテナントが権利放棄したものといえます。そして、それが客観的に(端から見て)「付
帯設備」として建物と一緒に賃貸されている以上、賃貸借の目的物の一部を構成するものとなります。よって、貸主が
修繕義務を負担するのが大原則となります。
したがって、貸主が「自分のものではないから」と言っても、今のテナントに対しては通らないことになります。
そのため、貸主が修理に応じないことを理由に、今のテナントが業者を手配して修理した場合、貸主は修理費を負担
する義務があります。また、今のテナントが業務に用いるような残置物の場合、修理に応じないことを理由に賃料の減額を請求されたり、場合によっては休業損害などが発生する場合もあります。
2.残置物がある場合の契約内容について
過去のテナントの残置物がある状態で、新しいテナントと賃貸借契約をする場合、重要事項説明書や賃貸借契約書
に、その備品が「残置物」だという説明をし、それについては貸主は修繕をしないことを特約として明記しておく必要
があります。
もっとも、契約内容、例えば何でもとにかく修繕は借主負担とするようなものは、消費者保護法に反するとして、特約が
無効となる場合もありますので、注意が必要です。
3.そもそも残置物を残させないことが大事です!
①残置物設置について同意すると→貸主に買取義務が発生する可能性あり!
特に貸倉庫の場合、テナントが入居中に、事務所スペース、2階部分などを設置したり、床のコンクリート部分を張り替えする場合があります。またテナントが飲食店を営む場合、厨房設備関係、棚やダクト、空調設備等を設置する場合があります。事前にテナントから打診があり、貸主が設置に同意すると、テナントが退去するときに、設置物について買取請求権が発生する場合があります。
このような場合、同意するにしても、買取請求には応じないなどの念書を作成しておくのがよいです。大がかりな設置物なら、保証金の増額も要求すべきです。
②テナントが勝手に設置したら?→解除も検討、しかし現実は難しい…
テナントが勝手に設置した場合、無断増改築を理由に貸主から解除できる内容の契約書が多いです。しかし、貸主から契約を解除して、テナントがすんなりと応じることはありません。テナントは設置するについて資金を投入しているから当然のことです。
そのような場合、保証金の増額を要求し、応じなければ解除することを検討すべきでしょう。
③退去時には毅然とした態度で撤去を求める!
テナントの資力に問題がない場合、テナントが設置した物については、「すべて」撤去するように求めてください。
鍵を受領すると退去したことになるので(賃料支払義務がなくなります)、残置物が多いときは、鍵の受領を拒否します。
④残置物がある場合、次のテナント募集に影響が出ることもあります。
特に、次のテナント候補が役所の許認可が必要な業種の場合(例えば医療や介護事業所関係など)、残置物があることで許可基準を充たさず、やむなく借りるのを断念するという例もあります。
くれぐれも、次のテナントにもあった方が便利だろうという安易な考えで、テナントが退去するときに「そのままでいいよ」などと言わないでください。
4.残置物が残ってしまったら?
例えば次のテナントが居抜きのまま飲食店を営む場合や、テナントの資力不足で撤去費用がまかなえず、やむを得ず残
置物があるまま、次のテナントに貸すこともあると思います。
①その場合、2のように残置物であることを契約時に明記する必要があります。
②しかし、それ以上に、どのテナントが、何を残置したのかをしっかりと確認して写真撮影するなどして記録しておくこ
とが大切です。
この確認が不十分だと、今のテナントが退去する場合の原状回復をどこまでするのかでトラブルになります。
例えば、この設備は今のテナントが設置した物ではなく、借りたときから元々付いていたなどと主張した場合、貸主
が今のテナントが設置したものであることを証明できないと、今のテナントは原状回復をしなくてもよいことになってしまいます。
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